ある日の、真夏の暑い日でした。お昼を過ぎたので、一旦ギャラリーの休憩時間と戻り時間の札を出して、近場の喫茶店にランチに入り、1時間後、ギャラリーに戻ると、猛暑の中、出入り口に立つ独りの男性が居ました。僕が、「お待たせ致しまして、申し訳ありません。」と、お伝えすると、汗だくの男性が、タオルで顔を拭きながら、「東京は暑いものですね、Oと申します。」と、挨拶をしてくれました。
お暑いところをお待たせしてしまったので、急いで、ギャラリーを開け、冷房を全開にして冷たい麦茶を入れました。男性は、美味しそうに麦茶を飲むと、「改めまして、明日からの展示をさせて頂く、Oと申します。そろそろ、作品が到着する予定ですので、梱包を開梱に参りました。」と、言うのです。そんな、ご挨拶をしていると、配送のお兄さんがやってきて、段ボールの荷物がいくつか届きました。僕が見とれていると配送のお兄さんが、「今日も暑いですね。こちらにサインで、お願い致します。5点になります。」と、言うので、慌てて配送伝票にサインをしました。5つの段ボール箱が届きました。
Oさんは、どうやら無事そうですねと言いながら、荷物の蓋をほどき、大事そうに、中から花瓶らしきものを取り出しました。Oさんが、段ボールの梱包を開梱していると、その中から、何やらダウンコートらしきものが垣間見られます。床に散乱するダウンコートをみつめ、僕が、どう扱ってよいものか迷っていると、「ダウンコートは、恥ずかしながら、作品を運ぶ際の緩衝材の代わりですので、再利用致します。最終日まで、保管をお願いしても良いですか?」とOさんが言うので、「もちろんです。」と、ダウンコートをハンガーに掛けようとするとOさんは、これらは、着るものではなくて、緩衝材代わりですので、ゴミ袋か何かにまとめて頂いて結構ですとの事でしたので、ダウンコートをまとめて大き目のポリ袋に入れました。
Oさんは、作品の輸送に宅配便を利用していましたが、予算の関係上、アーティスト自身が、手運びする方々もいます。ですが、作品を保護する為の、梱包の緩衝材としてダウンコートを使用するアーティストさんは始めてです。真夏もダウンコートも悪くない・・・。Oさんの作品を、キンキンに冷房で冷えたギャラリー内で鑑賞しながら、そんな事を考えていました。