高分子フィルムのガス透過度や透湿度は結晶化度の増大とともに減少します。ポリエチレンやPETフィルムについて結晶化度と透湿度の関係を求め、透湿度は結晶化度の増大とともに減少するということや、密度の異なるポリエチレンフィルムについて同様の結果を得た、という研究成果が報告がされています。このことは、結晶領域でのガスの透過はなく、ガスは非晶領域を拡散していくと考えることで説明できそうです。PETなどのポリマーの結晶度と酸素と水蒸気透過度関係では、結晶化度が高いほど、透過率は低くなっていくことが報告されています。しかし、HDPEの圧延フィルムの場合、熱処理によって結晶化度は増大しますが、透湿度は減少せずに増大することが報告されており、PEのガス透過度についても同様の結果が得られています。この場合は、結晶の微細構造の熱処理による変化を考慮することが必要となります。HDPE圧延フィルムの熱処理前後の走査型電子顕微鏡(SEM)写真では、熱処理によりラメラの成長が見られます。小角X線回折の結果によると、このラメラの厚さは熱処理によって増大します。PE単結晶についても、熱処理による肥厚現象が観察されています。この場合、肥厚に伴って分子の存在しない空隙が形成されているのが見られます。HDPE圧延フィルムの熱処理についても同様の微細構造の変化が生じているものと考えられます。したがって、圧延フィルムの透湿度が熱処理によって増大する現象は、ラメラ内の空隙形成を考えることによって説明することができます。すなわち、PE中のガスの透過度を、ラメラ内に空隙による貫通孔が形成されることによって、ガスの透過経路が短縮され、幾何学的阻害要因の値が小さくなったためと説明することができそうです。